シャッターの向こう側。
「君が考え事をすると、ろくな事がないって宇津木が言ってた」

 ……ひどい言い方だなオイ。

「ま…まぁ。言われても仕方ないかも」

「仕方ないのか……」

「たまに考えろって言われますが」

「どっち?」

 深くは聞かないで欲しい。

「で、何をぼんやりしてた訳?」

 何をって……

 色々な事が有りすぎて、イマイチまとまらないと言うか。

「……有野さんて、世話焼きって言われた事はありませんか?」

「ん? お節介ならよく言われるかも知れないね」

 爽やかな笑顔に吹き出した。


 いや、笑っちゃいけないわな。

「仕事は順調?」

「はい」

「プライベートは落ち着いた?」

「たぶん……」

「それで、何を悩むの?」

 それが解れば苦労はしない。

「今、宇津木さんにフリー契約書なるものを渡されておりまして……」

「お?」

 ひょいと有野さんは眉を上げて拍手してくる。

「凄いね~。宇津木がお墨付き出すにしては最短だ」

 ……お墨付き、ですか。

「あれ。何か疑わしげな顔だね。安心してもいいと思うよ? ああ見えて、宇津木は色々なこと考えるヤツだから」

 単細胞じゃないのは薄々気付いてますとも。

「……で、悩んでる訳なんだね?」

「はい」

 確かに時間は欲しい。

 欲しいけど、一人は恐い。

 恐いけど、やってみたいと言う気持ちが無いわけでもない。

「結局、私はやっぱり我が儘なのかもしれないです」

「そうかなぁ? 宇津木や俺に比べると、神崎さんて我が儘に思わないけど」

 有野さんは微笑んで、スマホを取り出すとおもむろにどこかに電話をかけ始めた。


 なんか……

 いや~な予感がする。

「あ。悪い悪い」

 あくまでもにこやかな有野さん。

「あ~……お前の可愛いフォトグラファーが迷子になってるよ」


 は…はぁ!?

 ビックリして立ち上がったのと、手を掴まれたのは同時だった。


「うん。そう。だから迎えにおいで。下で捕まえておくから」

「あ、有野さん!?」

 ちらっと目が合って、有野さんは通話を切った。

「宇津木が迎えに来るからおとなしく待ってようか?」

 待ってようかって…

 ちょっと待てぃ!

「有野さん。今なんて……」

「うん? お前の可愛いフォトグラファーかい?」
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