シャッターの向こう側。
「有り得ませんから! だいたい宇津木さんて口は悪いし、手も足も出るし、すぐに叩くし! 首は絞めるし容赦ないんですから!」

「いや……だから、それなのに何故、席を移動して下さいって頼まないのさ」


 だから。


「悪気がないってのは解りますって、前にも言ったじゃないですか」

「君ってマゾっけがあるとか?」

「そんな訳があるはずないじゃないですかっ! それに、有野さんが宇津木さんをそんな風に言っちゃいけません!」

「なんで?」

「宇津木さんは、有野さんを悪く言うことなんて無いんですから! だから……」


 上手く言えないけど。


「とにかく、言っちゃいけません!」


 って……


 それで……


 何故に笑ってるんですか。


「いやぁ~。面白いね」

 私、全然面白いとは思わないけど。

「他人の恋路って、端から見てると微笑ましいよ」

「…………」


 うきゅ!?


 こ……

 恋路とかぬかしましたか!?

「それこそ有り得ません! あんなサドで何考えてるか全然解らない様な人っ! 宇津木さんて無愛想だし、怖いし!」

「うん?」

「いつもやることの半分も説明してくれないし、自信過剰だし!」

「宇津木が?」

「そうですよ! 宇津木さんはとにかく恐いんですっ! 障らぬ宇津木に祟り無しなんですから」

「……エライ言いようだな」

「そりゃ~もう……!」


 ん?


 今の声って?


「…………」


 目の前で、声もなく笑ってる有野さん。

 恐る恐る振り返る。


「………っ!?」


 そこには、腕組み仁王立ちで無表情の宇津木さんがいた。

 ひ……

「ひぃぃい~!」

「……何て声を出してるんだ」

 出したくなる!

 間違いなく出したくなるからっ!
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