シャッターの向こう側。
 ……あ。

 なるほど。

 消してしまったら、見直しなんて出来ない。

 そう考えて、手もとのフィルムケースを見た。

 フィルムの場合消去なんてできない。

 だからか、撮る時の緊張感が私の場合とても違うかもしれない。

 お祖父ちゃんの一眼レフの時は、とても集中できるものな……


「まぁ、便利になったのに文句を言うと、若い人には苦い顔をされますがね」

「あ。いいえいいえ。ただ、職業柄、デジカメの方が通信に便利なもので……」

 苦笑すると、高橋さんはゆっくりと頷いた。

「ああ。報道カメラマンの方はそう言いますよね。早く情報を送れるとか……インターネットでしたか」

「はい。私は報道カメラマンじゃないですが、同時進行なんていうのはザラなんで、やっぱり便利と言うか……」

 思えば、確かに便利な世の中になったよな。

「昔は画像を写すのにも1時間はかかったものですがねぇ」

 高橋さんの言葉に瞬きをする。

「一時間ですか?」

「それだけカメラも古かったということですわ」

 そんな感じでカメラの昔話を聞きながら、作業を手伝ってもらい、最後に暗室を借りる。

「最近じゃ印画紙を取り扱う店がどんどん少なくなってきてますよね」

「そうですなぁ。それだけデジタルの時代と言うことなんでしょうなぁ」

 安全光の薄暗い赤い光の下、ネガを印画紙に写し撮っていく。

 それを現像液に漬け、定着させ、あとは次々に乾かしていく。

 吊り下げられたモノクロの写真に、高橋さんは少し嬉しそうだった。

「やはり機械を使うだけの写真より、こういう写真の方がわしは好きですな」

 その表情に私も嬉しくなった。


 ……だけど。


 出来上がった写真を眺め、唇を尖らせる。


 ピントが甘い。

 光源が暗い。

 構図が納得いかない。


 ダメ出しをどんどんしていく。


 ……悔しいなぁ。


 そして、一枚の写真に立ち止まった。


 薄灰色の広葉樹。

 それに手を伸ばす男性の姿。

 木陰の暗さと道の明るさ。

 光と影の絶妙なコントラスト。


 これは……


 目を凝らしてみると、その口元は微かだが微笑んでいた。


「…………」
< 26 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop