シャッターの向こう側。
「やっぱりこの辺りは懐かしいな」

 勝手知ったるレンタカー。

 マンションに向かう途中、助手席に座りながら、しみじみと宇津木さんが呟いた。

「そう言えば、宇津木さんもこの辺に住んでいたんでしたよね?」

「学生の頃から一昨年までな。 ただ……コンビニが少なくてなぁ」

「あ~。まぁ、そうですね」

 バス停前のコンビニは、本当に最近できたばかりだから。

「お前は長いのか?」

「はい。こっちに来てからずっとです。この道の先に専門学校があって……今は方向的に見れないですけど」

「ああ。なる程」

 宇津木さんが納得して頷いた。

「毎日、自転車で通ってたんですよ」

 通っていた専門学校は駅とは逆の方向にあるから、勤めてからは見てもいない。

「そういやバス待ちしてる時、やたらに自転車も多かったな」

「けっこう居たんじゃないですかね?」

 学生さんはお金がないから。

「宇津木さんはどの辺りだったんです?」

「俺の住んでたとこ?」

 それ以外に何がある。

「お前のマンションと逆の通り。お前は今あのバス停を使ってるんだろ?」

 丁度見えてきたコンビニ前のバス停を指差し、宇津木さんは首を傾げた。

「あのバスで、一昨年まで会社に通っていた」

「……へぇ~」

 なんだ。

 結構、ご近所さんだったんだな。

 マンションに向かう小さな交差点で左折して、車を路肩に停める。

「じゃ、用意して来ますので、ちょっと待っていて下さいね」

「OK。とりあえず、防寒になるものも取って来いよ?」

「え?」

「馬鹿は風邪をひかないって言う割に、お前は風邪をひきやすいみたいだから」

 ニヤッと笑う宇津木さんを睨んで、運転席側のドアを閉めた。


 全く!一言多いんだ!

 でも、確かに星空って事は野外撮影だから、寒さ対策するに越した事はない。

 望遠レンズや、替えのフィルムを用意してからストールとフリースジャケットも持つ。

「お待たせしました」

 車に戻ると、宇津木さんは片手を上げて頷いてくれた。

「途中、夕飯でも食ってから向かおう」

「了解です」

「晴れて良かったな」

「晴れなかったらどうなるんです?」

「期日ギリギリ」

「それは嫌ですね」

 なんて話しながら車を走らせた。
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