シャッターの向こう側。
 まぁ……仕事をしていたら、ある意味くよくよ考えなくて済むかな。

 確かに私って、考えても選ぶのは一瞬で……考えた通りにいった試しもないし。

 でもねぇ。

 今回の件は、下手したら人生左右しちゃうよね。

 成功するか、失敗するか。

 飛び込んでしまえば、どうにかなるかもしれないけど、そう上手く行かないのも世の中で。

 思えば、高校時代の私ってば、世間知らずも良いところだよ。

 先を見ないで飛び込む……なんて、若い時にしか出来ない芸当だよね。


「ピヨ?」


「はい?」


 この時間帯でも渋滞はあるんだな。

 赤信号で停まりながら、ちらっと宇津木さんを見た。


「それで、お前はどこで迷ってるんだ?」


 は……


「はいぃ? 私、道間違えましたか!?」

 カーナビ通りに来てるよね!?

「あのな……」

 何故か溜め息混じりに首を振られた。

「そうじゃない。お前、まだ迷ってるんだろう?」

「…………」


 腕を組み、難しい顔の宇津木さん。


「俺が示したのは、選びとれる事項の一つを出しただけに過ぎない。何も今すぐにどうこうすれと言ってる訳じゃないんだ」


 それはそうだけど。


「……時には新しい世界に挑戦するのもいいと思うぞ?」

「新しい……世界、ですか?」

「ああ」


 信号が青に変わり、車が流れ始める。

 それに従ってアクセルを踏みながら、眉を寄せた。


 新しい世界。


「なんか、新手の信仰団体みたいですね」

 ハンドルを握りながら呟くと、隣から吹き出すような音が聞こえた。


 って……


 ぇえ!?


 笑った?

 今、宇津木さん笑った!?

 笑い声をあげたよね?


 み、見たい!

 もの凄く見たいぞ!


「ピヨ」


 そう呟く声にも、ちょっとだけ笑いが滲み出ていて……


「前を向いてろよ?」


 ですよね~?
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