シャッターの向こう側。
「ホントに……お前って楽しいな」

 楽しそうな声に眉を上げ、首を傾げる。

「ホントに楽しそうですねぇ」

「まぁな」

 コホンと咳払いが聞こえて、宇津木さんはカーラジオを入れて、そこから陽気なDJの声が飛び出してきた。

 しばらく黙って、ラジオから流れてくるリクエストのミージックを聴く。


「神崎」

「はい?」

「少し真面目な話をするぞ」

「私はいつだって真面目ですよ」

「……それはともかく」

 ともかくってなんだ。

「お前が迷うのも解らない訳じゃない」


 ん?


「……昔話をしようか」

「昔話ですか?」

「ああ」

 ここで〝桃太郎〟とか話し出したらビックリするよ?


「お前、俺が専門学校も美大も出てないの知ってるか?」

 言われて、ちらっと宇津木さんを見た。

 確か……加納先輩に教えてもらった。


「普通の高校を出て、最初は理系の大学に行っていたんですよね?」

「その大学は卒業した」

「じゃ、本当にデザイン系の学校は行ってないんですか?」

 そう言えば、有野さんがそんな話をしていた様な気もしたけど。


「……俺の母親の実家って、芸大とか美専に行くのが普通なんだ。まわりの大人がそうだから子供もそれが普通って感じに」

「へぇ……」


 まぁ、宇津木さんはウチの会社の会長の孫に当たるんだっけ?

 とすると、何となく理解出来なくはないかな。

 まわりがそういう環境なら、子供の夢ってのは次第に決まって行くと言うか。


「だから、普通の大学に入った」

「…………」

 はい?

「うちの両親はある意味で放任だったが、母方の実家は美術系を選ぶのが当たり前だって感じでな。無言の圧力ってやつか?」

「ああ。うちのとは逆なんですね」

 うちの場合は両親が普通の進学を希望して、祖父ちゃんは好きに選びなさいと言ってくれていた。

 だから、私は好きな道を選んだ。

「それが堪らなく嫌で。だが……大学の終わりの年、就職活動中に迷子になってな」

 宇津木さんの静かな声に、気がつけばハンドルを強く握っていた。
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