シャッターの向こう側。
「このまま大学が進める会社に就職して、そのまま流されて行ってもいいものか……正直、迷ったな」

 ……誰でも悩む問題だよね。

 簡単な様で、簡単な問題じゃないもの。

「何もせずにスーツに身を包んで、ただブラブラする事も多かった。そんな時、街頭テレビで一枚の写真が紹介されてたんだ」


 写真?


「夕焼けの海で……雲一つない真っ赤な空に、波打ち際に立つワンピースの女性の後ろ姿」


 何となく想像出来た。


 と、言うか私……

 それを見たことがあるかも知れない。


「写真家、神崎 修也の作品だよ」


 思わず宇津木さんを振り返りかけ、


「安全運転で頼むな?」


 言われて前方に注意を戻す。


「お、お祖父ちゃんの、ですか?」

「ああ。ニュースでは帰国して個展を開いてるって話題だったから、行った」

 ……行ったって。

「お前の祖父さんは、いい人だよな」

「へ?」

「初めて会った若造にイキナリ相談されてるのに、嫌な顔もせずに撮影旅行に誘われた」


 ……は。


「はぃい~?」

「って言っても、一泊だったが。いい経験だと思っている」

 って、懐かしそうに話してるけど。


 ええっと?


 祖父ちゃんは何をやってるんだ!?


「ま。アレはきっかけだな。俺は書類に埋もれて仕事をするより、自分で何かを作り上げたかった」

 宇津木さんはそう言って、ウィンドウを開けた。

「だから、悩んでるなら相談するのもいいぞ? いつでも乗るから」

「はぁ……」

「ピヨ」

「はい?」

「面倒だから、ドライブスルーにしよう」


 んん?


「あそこにモフバーガーのドライブスルーがあるから」

「モフでいいんですか?」

「安上がりだろ?」

「あ。今月ピンチなんですか?」

「お前と一緒にするな」

 不機嫌な声にクスクス笑って、ドライブスルーに車を入れる。

 こういうやり取りって、なんか楽しい。


 最近、本当にそう思える。













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