シャッターの向こう側。
 今日、湖での笑顔にも驚いたけど、あの人でもこんな顔をするんだな。


 まぁ、鬼の目にも涙って言うからね。

 何を考えてるかも解らないけど。


「ああ。いい写真ですね」

 高橋さんが後ろに立って、写真を見ながら頷いている。


「彼氏さんですか?」


 その言葉に固まった。


 宇津木 隆平。

 御歳27……だっけ?

 一つしか違わないのに、有名な賞なんかもバンバン取って、会社からはアートディレクターなんかもさせてもらえる実力者。

 そりゃね、この世界は半分実力主義だし、うちの会社なんかは特にそう。

 じゃなきゃ27歳の若造が、アートディレクターなんか任されやしない。

 しかも今回は大きな仕事だ。

 だけどね、人の気にしてるような事バンバン言ってくるムカつくやつだし、足は出るし手も出るし、サドだし。


 ……私の理想は〝やさしい人〟だ。

 力強く頷いて、高橋さんを見る。


「こんな奴、彼氏じゃありません」

「物凄く考え込んでましたね」

「そんな事もあります」

 それから写真が出来上がると、カラーフィルムを買って、ホテルに向かう。

 ちゃんと経費が出るからいいけど、前払いじゃないから、タクシー代が2000円超えるのは痛いなぁ……

 ブツブツ言いながら、ホテルのロビーを通り過ぎようとして。


 襟首を後ろからつかまれて、首が締まった。

「ぐぇ……」

「お前、もっと女らしい声上げられないのか」

 涙目になりながら振りかえると、顔をしかめた宇津木さん。

 顔しかめたいのはこっちの方だっての!!

「な、なんなんですか。ストーカーですか!?」

「そこまで女に不自由してない」

 サラッと言いながら、宇津木さんは私のバックを見た。

「写真。できたか?」

「そりゃできましたわよ」

 つんとそっぽを向いて服を直すと、宇津木さんは頷いてロビーの奥にあるカフェを指差した。

「あっちで見せてもらう」

「はいはい」

「返事は一回でいいぞ」

 内心で舌打ちしながら、宇津木さんの後についてカフェに向かった。
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