シャッターの向こう側。
「おーい。神崎さ~ん? 帰っておいで」

 今野兄に呼ばれて、ハッと辺りを見回した。

 もう着いたの?

 てか、見覚えない建物だらけだよ?

「今、加納さんを下ろしたとこ。何度呼んでも聞こえてなかったみたいだけど」

 え。

 あ、あら?

 加納先輩が気がついたらいない。


「すみません。考え事してました」

「そうみたいだね」

 今野兄はクスクス笑って、アクセルを踏んだ。

「そう言えば、今日資料室で神崎さんの写真を見たよ」

「……資料室?」

「あれ? 知らない? フォトグラファーの写真って、使わなかった分は資料室に1年くらい保存されてるんだよ?」

 知らないです。

「俺らの写真って、誰が使うか解らないからね。例えば、宇津木さんが使わなくても他のグラフィックスの人が使ったり」

「へ……へぇ?」

「ま。神崎さんの写真って、使いにくそうなのばかりだったけど」

 はい?

「神崎さんて、宇津木さんをよく見てるんだね」

「…………」

 は、はぃい~?

「それはどういう意味ですか」

「そのままの意味だけど」


 いや……

「よく解りませんが」

「って、言われても……ん~……」


 そんな呻かれても、解らないモノは解らない。

「俺はフォトグラファーだから、そう思ってるんだけどさ」

「はい」

「カメラを覗くと、視界が限られているでしょう?」

 まぁ、360度見渡せるファインダーなんて聞いた事はないですね。

「だから、俺はファインダーを自分の視界に置き換えて考える癖があるんだよね」

 あ。

 それは何となく解る。

 だって、私も見たままでシャッターを切るもの。

 見たまま、感じたままを写し撮りたいし。

「でさ。資料室の写真って、宇津木さんが大概写ってたし」


 ……あ。

 まぁ、覚えがあるかも知れないです。

「……神崎さんてさ」

 はい。

「宇津木さん好きでしょ?」


 は?


 と、思った瞬間に、またまた甲高いブレーキ音。

 ガツンと目の前で星が飛んだ。
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