シャッターの向こう側。
 浴衣の一団の後ろ姿。

 その中に交じった私服が妙に目に入る。

 サラッサラの髪。

 今よりも少し長め。

 この黒いシャツには、覚えがある。

 宇津木さんの後ろ姿だ。

「……そういえば、宇津木さんだけ私服だったっけ」

 なんせ、ホテルの前で待ち構えてたもんね。

 何も待ち構えてなくてもいいのに……と思うけど、待ち構えてたね。

「……あれぇ」

 でもなんで?

 確か、浴衣姿の宇津木さんを見てる気がするぞ?

 この後で着替えたんだっけ?


 ……うーん。


「何してるの?」

「うきゃぁ!」

 写真をまたぶちまかしそうになって、慌てて堪える。


「……神崎さんは、落ち着きがないって言われない?」

 のんびりと低い声に振り返り、可愛い笑顔の有野さんを見上げた。

「こ、こんにちは」

「うん。こんにちは」

「脅かすのは無しにしてください」

「いやぁ……これでも入口付近から呼んでたんだけどね?」


 あら。


「それは失礼……」

「それで、何をしてるの? ここ、あまりフォトグラファーの人は出入りしないと思うけど」

「あ。昔の写真を保存してあるって聞いたので、見てみようかな~って」

「ふぅん?」

 有野さんは手元の写真を覗き込んで、微かに笑った。

「懐かしいのが出て来てるね。広報部が使いたいからって、フォトグラファー全員に写真を撮らせたヤツでしょう?」

「あ~……それか」

 なんでここに社員旅行の写真かと思いましたよ。

「宇津木だね」

 有野さんはニヤニヤ笑って、さっきの一枚を抜き取る。

「こん時は面白かったよ~。君、行方不明になったでしょう」

「……えへ」

 なりましたとも……

「いい大人なんだから、一人でも帰ってくるって言ったのに、宇津木はサクサク着替えて捜しに行ってた」


 へ?


「捜しに?」

「うん。今になって、君の行動が解るようになったけど……君って方向音痴だよね~」

 いや。

 楽しそうに言われましても。


 でも……


 宇津木さん、捜してくれてたの?
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