シャッターの向こう側。
「……おい」

 頭上から低い声が聞こえてビクッと飛び上がった。

 振り返ると不機嫌そうな宇津木さん。

「こ、こんにちは」

「こんにちはじゃない。連続でサボりとはいい度胸だな」

「え。そんな事はちらっとも思ってませんでしたよ」

「思え。そして自覚しろ。お前が資料室の写真を見ても意味がない」

 ……ひどっ!!

「使えそうなのは俺が持ってる」


 は……


「はぁあ?」

「ワザワザ使えそうなのを他のヤツに使わせるか。頭を使え、頭を」

 ジロッと睨まれて、ファイルを閉じた。

 ま……まぁ。

 そうなのかも知れないけど。


「解んないかも知れないじゃないですか」

「デジカメのはほとんど使えない」

 う~……。

 この物言いがムカつくって言うの。

「とにかく仕事だ。急げよ?」

 資料室を出て行こうとする宇津木さんを見て、慌ててファイルをもとの棚に戻す。

「仕事って、また急ですね」

「お前に合わせてやってるだろうが」

「何をどう合わせてるって言うんですか」

 歩きながら見上げる。

 宇津木さんの静かな視線が返ってきた。

「……そうだな。来週はA社系列の飲食店のPRポスター撮り、F社の宣伝用の写真もいる。予想としてはその間に企画のパンフ用の写真が必要になる。それから」

「……ごめんなさい。頭に入りません」

 人間、素直になる事も大事だ。

「なら文句言うな」

 言いたくもなる。

 たまには……


「今度は何を撮ればいいんですか?」

「海」

「海ぃ!? この寒空に!?」

「天気はいいし、まだ行ける。とりあえず車は借りたから、まずは防寒にお前のうちに寄るぞ」

「……はぃ」

「情けない声出すな。俺だって寒空に出るんだから」

 頭を軽く小突かれて、乱れた髪を押さえた。


 ……なんとも、妙だ。


 と言うか、かなり妙だ。


 今までなんとも思わなかった事が、どことなく妙だ。

 そもそも、妙だと思わなかった事が妙だと思う。
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