シャッターの向こう側。
 だって、グラフィックの人が外部の撮影に同行するってのは滅多にない。

 めちゃめちゃに急過ぎる加納先輩みたいなのはともかく……

 宇津木さんてついて来る必要はないと思う。

 だけど、宇津木さんはついて来る。

 特に遠出の時。

「宇津木さんも、私が方向音痴だと思ってます?」

「違うのか?」

 いや、真面目に返されてもかなり困る。

 と言うか、本当に真面目にそう思われていると思うと困る。


「……そんな事はないですよ」

「何となく言われても聞けんな」

「いや……何となくって言うか」

 考え事をしてなければ、それなりに解るんだけど。

「去年の社員旅行に始まって、社内でも何度か他の部署に紛れ込んだだろ? それに空港でも反対に行く、T市では太陽の向きを間違える。それのどこが方向音痴じゃないと言える」

「考え事して歩くのは止めますから」

「いや。無理だろう。お前はカメラを持つとまわりを見ない」

 宇津木さんは淡々と呟いて、ちらっと私を見下ろした。

「とにかく、今回は同行する。だから……心して掛かれよ?」


 何を……?


 その答えは、けっこうすぐに解った。



「寒いっ!!」


 叫んだら、宇津木さんは欝陶しいモノを見るような目で見る。


 仕方がないじゃない!

 全く持って仕方がないじゃないさ!


 真冬はまだとは言え、枯れ葉も落ちまくってるこの季節。


 誰が好き好んでふきっさらしの海岸に来るっていうのさ!


 てか、想像以上だよ!


 想像すらしてなかったわよ!


「だから言っただろうが」

 確かに言った。

 間違いなく確かに言った。

 けど……


「凍ってないから、気温はマイナスじゃないだろう」

 何故か海を見ながら呟く宇津木さんを眺めた。


 ……東京の海が凍ったら、それは異常気象以外の何物でもない。


「冗談のつもりですか」

「少しは気が紛れたか」

「そんなはずがありません」

 自信満々に腕組みして言うことでもないよ。


 思わずガッカリしちゃったよ。
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