シャッターの向こう側。
 ま。

 仕事を終わらせちゃえばOKだよね。

 吹き付ける風はかなりの寒さだけど。

 そりゃ~もう、冗談ですら凍る程の寒さだけど。

 雲は少なくて青空はバッチリだし、波は比較的に穏やか。


「今回のコンセプトはなんですか?」


 カメラを取り出す私に、宇津木さんは背後で小さく笑った。


「恋の海」

「はぁ!?」


 ふざけてる……


 訳ではないらしい。

 現に宇津木さんは書類を眺めてるし。

 しかも、とても皮肉っぽい笑顔で。


「なんですかそれ」

「C社の新作ゲームなんだと。そのイメージがソレ」

 ソレ……って。


 あれかな。

 擬似恋愛シュミレーションゲーム。


 宇津木さんにしては……


「め、珍しい仕事をやってますね……」

 そう言うと、宇津木さんの顔が複雑そうで不機嫌そうな……なんとも情けない様な……

 そんな顔をする。

「有野さんに言ってくれ。イキナリ持って来られた」

「……ご愁傷様です」

「お互い様だな」


 ごもっとも。


 ……恋の海、恋の海ねぇ。


 なんでそれで海なんだ。


「訳わかんない」

「有野さんに言え。俺にも解らん」

 あれ?

「宇津木さんが使うんじゃないんですか」

「第二クリエーティブからの流れ作業。最終編集は有野さんだ」

 へぇ。

 有野さんとはコンビ組むの多いんだな。

「だからって手を抜くと、有野さんも駄目だししてくるからな」

「誰が手を抜くと言いましたか!」

 だいたい、宇津木さんが間に入るなら、いつもと同じ流れじゃないか。


 だけど──……


「うーん」

 ファインダーを覗いても、なんかイメージが浮かばない。

 さて、どうしたもんか。

 冬の海イメージで思い浮かぶのなんて、失恋のイメージなんですが。

「失恋かな~……」

 正直、宇津木さん以外はハッキリイメージを言ってくる。

 こんな漠然とは言って来ない。

 今回、有野さんの言葉を宇津木さんを通すことで、有野さん自身のイメージがわかりにくい。

 だいたい、第二絡みは荒木室長通してだから……
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