シャッターの向こう側。
「有野さんからは〝恋〟って事しか聞いてない。それで晴れた海の写真が欲しいと」

 助け船の様な、助け船にはあまりならないコメントをつけてくる。

「うーん」

 そんなんで解る人は滅多にいないと思うよ!

「あまり考えるな。いつも通りに撮ればいい」

 ポフッと頭に何かを押し付けられてカメラから視線を上げる。

 ……手袋?

「邪魔か?」

「申し訳ありません。手袋は……」

 ありがたいんだけど、カメラを持ってる時は手袋をつけないんだな。

「シャッターを切りにくいし、なんとなく感覚がズレると言いいますか……」

「ああ。成る程な。じゃ、こっちだ」

 今度はクルクルと首にマフラーを巻かれた。

 ふわっとコーヒーの香りがして、冷たい風に流れて消える。


 って。


「い、いいですよ! 宇津木さんが風邪引きますから!」

「中にフリース着てる」

 ……そういう意味じゃないと言うか、ふざけてるのか? と言うか。


 首に巻かれたマフラーを見て、少しだけ苦笑する。


「ねぇ宇津木さん」

「なんだ?」

 カメラを構えなおし、覗きながら瞬きをする。


「宇津木さんにとって……恋ってどんな事ですか?」

 ちょっとだけ、聞いてみたくなった。


「恋……って、人に聞くもんか?」


 難しい声に、実は真面目に妙な会話になっている事に気がついた。

 そりゃ~、お互い妙齢の男女の会話じゃないよね。


「あ、今の……」

 と、訂正しようと振り返り、

「片思いの恋と、失恋と、相思相愛とかじゃ断然違うな」

「…………」


 イキナリ悩みだした宇津木さん。


 って……


 真剣に考え出してるよ。


 ポカンとした私に全く気付かず、宇津木さんは腕を組んだままで砂浜を眺める。


「相思相愛って言うのは簡単だな。たぶんお互い想い合っていて、楽しいだろうし、嬉しいだろう。それだけでもないが」

「……ま、まぁ。そうですよね」
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