シャッターの向こう側。
「お伽話のおしまいと違って、幸せに暮らしました……では普通終わらないからな」

「え、えぇ……」

 終わってもいいけど、そこで人生終わる訳じゃないし……

「もどかしい……かも知れんな」

 小さく、ポツリと呟かれた言葉にカメラを下げる。

「もどかしい?」

 宇津木さんは砂浜を眺めたままで、どこか自嘲的に笑っていて……

「俺は劇的に人を好きになった事がない。だから、一目惚れとか……そういうドラマティックな事は解らない」

 一目惚れかぁ……

 それは私にも解らないな。

 したことないし。

「気がついた時には、たぶん好きなのかも知れないな。ただ……」


 宇津木さんは言葉を切って、視線を上げる。


 ただ静かに、感情を見せない瞳で……


「気がついた時には、どうにもならない事の方が多い」


 その瞳に、何故か私から視線を外していた。


 目の前に見える海はとても静かで、青い空はどこまでも遠い。


 人間なんて、自然の中ではちっぽけで……

 そんな中にいると悩みもちっぽけに見えるって、よく言うけど。


 でも、ちっぽけな存在だけど、個々に生きている存在で……


 人間は考える存在だね。


 思いながら苦笑する。


 私も確かに一目惚れって解らない。

 そんな経験はないし、そんなにハッキリ解る人は凄いんじゃないかと思う。

 高校の時は確かに好きな人がいたけど。

 あれだって、彼の視線の先が友達に向いているのにショックを受けて気付いた様なもんで……

 あの時は、ショックだった……と言うより辛かったな。

 奪おうとは思わなかった。

 彼の想いってのは、完璧に彼女に向いていたのに気付いてたし……

 徐々に始まる恋って、解りにくくて……

 確かに、宇津木さんの言う通りに〝気がついた時にはどうにもならない事の方が多い〟んだ。


 だから、あまり考えない様にしてきたんだけど。


 そう。


 考えない様にして来てる……
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