シャッターの向こう側。
 辛くて、悲しくて、苦しくて。

 大泣きするだけして何もしなかった恋。

 あんな想いをするなら。

 そんな想いは、もう二度と持ちたくなかった。


 だから……


 だから、私は付き合っても長続きしたことがなかったのかも知れない。



 ぶつかって玉砕した恋もあった。

 駄目だと最初から諦めて、付き合えればいいかも……って程度の気持ちだった。


 付き合ってみて、お互いにいがみ合って別れてしまった恋もあった。

 告白されて付き合って、結局、お互い嫌いな部分が見えてきて終わった。


 なんとなく近づいて、なんとなく終わってしまった恋もある。

 何となく始まった付き合いは、やっぱり何となくフェイドアウトした。


 思えばどの人も……高校の時のあの人の様には好きじゃなかった。

 どの人も……二番目に好きな人だった。


 もう傷つきたくはないから……


 無意識のウチに一番好きな人から目を背けて……


 ……いやだ。

 それって、色々とまずいじゃない。

 徐々に始まる恋って、本当に解りにくくて……


 気がついた時には、どうにもならない事の方が多い。


 だって、ちゃんとした恋人がいるもの。

 仕事には厳しいくせに、仕事中にも電話を受けちゃうくらい……


 大切にされてる恋人がいるもの。


 だって……いい人なんだもの。

 優しい人なんだもの。

 保護者ぶって、偉そうで、ちょっと暴力的だけど……


 二人とも……


 凄く。


 とても……



 優しい……。



「宇津木さん」

 カメラを持ち上げてニッコリ振り返ると、訝しむ視線と目があった。

「なんだ?」

「モデルになってくれません?」

 ぎょっとした様に、宇津木さんは一歩下がる。

「俺……?」

「他に誰がいますか」

「なんで俺」

「何となくです」

「うわ……」

「うわ、じゃなく。波打ち際でも散策してみてくださいよ」

「俺、モデルでもなんでもないんだが」

「あ。後ろ姿だけでいいです。顔は出しませんから」
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