シャッターの向こう側。
「肖像権とるぞ?」

「会社に請求して下さいよ?」

「……出来るかよ」

 ぶつぶつ文句を言いながら、砂浜を歩いていく宇津木さんの後ろ姿をファインダー越しに見つめる。


 後ろ姿を見ていた。


 いつも、振り返ってくれるのを期待していた。


 どうしてかは全然解らない。


 だけど、いつの頃からか……


 たぶん、並んで歩きたいと思っていた。


 フォトグラファーとグラフィックデザイナー……

 そりゃ扱うモノは違うけど〝アート〟を目指す姿勢は一緒。

 だから、ライバルとして一緒に歩いて行きたいんだと……


 漠然と思っていた。


 でも


 たぶん違う。



 そうじゃない。


 いつからか知らない。


 知らないけど……



 思えば、ずっと見ていた。


 ずっと、ずっと……



「ここでいいか?」


 かなーり離れた位置から声をかけてくる宇津木さんに微笑む。


「離れても、望遠レンズありますが」


「勘弁しろよ……」


 ゲンナリとする宇津木さんにクスクス笑った。


 私、宇津木さんが好き。


 だけど、冴子さんも好き。


 坂口さんには迷惑をかけてしまった……


「…………」


 夢は写真家。

 私はそんなに器用じゃないから。

 両方なんて上手く出来ないから。

 だから


「宇津木さん」


「なんだ?」


 頑なに海を見つめ振り返らない。


 そんな姿を見ながらピントを合わせる。


「私、契約社員になろうと思います」


 驚いた様に振り返った瞬間、シャッターを切る。


「あ……」


「あー……駄目じゃないですか、振り返ったら」


「今のは不可抗力だ。消せ!」


「消せませんて。このカメラじゃ」


 手を振りながら肩を竦めて見せると、宇津木さんは顔を押さえてうなだれた。


「現像したら外しとけよ?」

「もちろん」


 にこやかに返事をすると、宇津木さんは背を向けた。


 その後ろ姿に……


 何故か泣きそうになった。















< 283 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop