シャッターの向こう側。
 だって……さ。

 私なんてそもそも〝子供〟扱いでしょ?

 それに相手はキレイ系のお姉様でしょ?

 そりゃ~仕事上では、解りにくいし宇津木さん流だけど、それなりに優しくアドバイスはしてくれてた。

 でもそれは宇津木さんがディレクターだからって話で……


 仕事とかは、頑張ればなんとかなるだろうって思うけど。

 人の心なんて、頑張ってもなんとかならないと思うし……


 だいたい私だって仕事はともかく、他の人から何を言われたって自分を押し通すのが多いし。


 宇津木さんもきっとそう。


 ……宇津木さんって、我を通すのは天下一だよね。

 これは自信を持って言えるぞ。

 腕時計を見て、肩を竦める。

 19時半を過ぎた頃ってのは、宇津木さんが残業していても、夕飯を買いに行ってるか外食しに行く時間。

 いなかったらデスクに置いていっちゃおう。

 ……着信を無視してる身としては、顔合わすのが恐すぎるし。


 なんて思っていたんだけど。


「久しぶりだね~。神崎ちゃん」

 ニコニコ笑顔の荒木室長の隣に、目を細めて書類を持つ宇津木さん。


 何故、いるんだ!


「お久しぶりです~」

 とりあえず愛想笑いをかましつつ、ずいぶんと閑散としたオフィスに足を踏み入れる。


 見ない間に配置が若干変わった?


 キョロキョロしていた私に、ツカツカと宇津木さんが近づいて来た。


「なんか用か?」


 うわぁ……


 これはご機嫌麗しくないみたい。


「はい。今野さんから、お借りしたものをお返ししに……」


 宇津木さんがちょっとだけキョトンとしてから腕を組む。


「それ?」


 と、指差したのは籠で、


「はい。ありがとうございました」


 渡そうとすると、ニヤッとされた。


「……それ。俺のじゃなく、加納のだ」

「は……ぇ。ええ?」

「お前また勘違いか、今野にからかわれるかしたんじゃないのか?」

「だって、これ持って宇津木さんとこに返しに行ってって……」

「今日、加納は帰ったけどな」


 あんにゃろう。
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