シャッターの向こう側。
 確かに宇津木さんの、とは言わなかったけど、あの言い方じゃ間違うって。

 加納先輩なら、別に会社までこなかったのにー!

「加納のデスクに置いとけばいいだろ。一日くらいじゃ枯れないだろうし」

 ひょいと籠を持って、宇津木さんはツカツカと離れて行った。

「……やっぱりデスクの位置が変わったんですね」

 呟くと、加納先輩のデスクらしきに籠を置いた宇津木さんが顔を上げる。

「ああ。だろうな」

 何が?

「お前のデスクは一応俺の隣のまま」

 へ?

「あるんですか?」

 宇津木さんは先輩の隣にあるデスクを指差し、頷く。

「お前の場合、今野ほど設備ないだろ?」

「白黒ならうちでも出来ます」

「現像はな?」


 パソコンもあるもん。


 スキャナーはないけど。


「とりあえずお前……」

 宇津木さんは自分のデスクの引き出しを開けて、一通の封筒を出す。

 そしてそれをピラピラさせながら、首を傾げた。



「飯食いに行くか」

「はぁ!?」


 それくれるんじゃないの?


 その封筒は何?


 唐突過ぎない?


「あの。意味が不明なんですが」

「腹減った」

 封筒をジャケットにしまい、ブリーフケースに書類を詰め込むとコートを取って振り返った。

「忙しいか?」

「いえ、今日は暇……」

「なら付き合え。仕事の話もある」


 し、仕事の?


「何度連絡しても連絡つかないしなぁ?」


 失敗した!

 これは失敗したよ!

 暇なんて言うもんじゃない!

 確かに暇だけど、嘘つけば良かった!


 嫌な感じに笑っているし。


 こ、恐すぎるー!!


「と言うか、先方がお前が良いって言うから、お前にやってもらわないと困る」

 宇津木さんは呟いて、荒木室長を見た。

「お先です」

「お疲れさん。神崎ちゃんもまた」

「あ、はい」

 と、頭を下げかけ、宇津木さんに髪を引っ張られた。

「行くぞ」

「はい」

「……パスタでもいいか?」

「…………」


 宇津木さんて、真面目にパスタが好きなんだな……


 そんな感じで、以前にも行った事のあるちょっとお洒落なカフェ風のレストランに入った。
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