シャッターの向こう側。
 ……それにしても。

 なんか居心地が悪いかも。

 宇津木さんの不機嫌顔は治まったみたいだけど……


「あの」

 今回は自分で選んだパスタを口に運びつつ、宇津木さんを見る。

「なんだ?」

 えーと。

「なんか無言で食べにくいです」

「はぁ?」


 キョトン、とした宇津木さんが顔を上げた。


「……いつも話しながら飯食ってたか?」

「多少は」

 少なくても、ここまで無言じゃなかったと思う。

「……何だか、久しぶりで調子が狂ってるのかもな」

 宇津木さんは呟いて苦笑した。

「ところで、そっちの調子はどうだ?」

「私ですか?」

「それ以外、何があるって言うんだ」

 いや、憮然とされても。

「格段に時間が増えましたね。それに荒城さんとの四季シリーズも継続中です。今度は冬なんですよね」

「冬か……雪がメインか?」

「私?」

「……俺が一度でもお前の名前を呼び捨てにした事あるか?」

「…………」


 目を細められて頬が熱くなった。

 いや。

 だってねぇ?

 あはははは。

「雪ですね、雪。パウダースノーなら嬉しく思います」

「なかなか難しい所だな。今時期に降るとすれば北の方だろ?」

 そうなんだよね。

 こっちじゃまったく降らないって訳でもないんだけど、降るのを待ってる訳にいかないし。

「雪を降らせて下さいよ~」

「何寝言を言ってるんだ」

 ですよね~?

「ま。お前が暇なら、出張行けるぞ?」

「は?」

「お前がいいってT市の施設と同じ会社からの依頼だ。今度はスキー場に新しくホテルを作ったんだと」

「へ?」

「だから、前回程の予算はないが……」

「ぇえ?」


 無言でメニューを持ち上げられ、とっさに頭をかばった。


「メ、メニュー表攻撃はいかがなものかと思います」

「いつまでも間の抜けた返事をしてるからだろうが」

 頭を庇う私に、宇津木さんは正論だとばかりに言ってくる。

「とりあえず詳しい話は後。まずは……」

 そう言って宇津木さんは私のお皿に視線を落とす。

「そのパスタは冷めない方が旨い」


 堂々と何言ってるんだか……


 もくもくと食べ始めたら、パスタについて語り始めていた。



 何故か、いつもより饒舌だった。
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