シャッターの向こう側。
 そして……

「期間は3日。しかもお前が音信不通だったから、締め切り間近」

 食後のコーヒーを飲みながら、宇津木さんは書類を広げる。

「……えーと。すみません」

「すんだことはもういい。先方はお前が捕まらなきゃ仕方がないって言ってたから」

「……はぁ」

 何とも漠然とした話で、生返事をする。

 だってさ、名指しの仕事なんかしたことないもん。

 いやさ、荒城さんとの雑誌の仕事は確かに名指しの仕事だけど。

 広告業界に2年もいるけど、一介のフォトグラファーに名指しの指名が入るなんて聞いたことがない。

 有名なプロとか、宇津木さんみたいなディレクターならともかく。

「……なんで私なんですかね」

 ポツリと呟くと宇津木さんは苦笑した。

「あの施設を作った会社に、俺の後輩がいるのは教えたか?」

「……なんとなく」

「そいつの流れで、今回の仕事も決まったんだ」

 いや、だから……

 何故、私。

「お前が撮った写真。気に入ったらしい」

「後輩さんが?」

「広報部の部長」

「うひょ?」

「うひょ?」

 不可解な顔をして宇津木さんが首を傾げる。


 あ、いや。


 〝うそ〟と〝ひょ~〟が合わさって……


「……えへ?」


 宇津木さんは椅子に背を預けると、腕を組みしみじみと私を見た。


「な、なんですか」

「いや……言うつもりはない」

 そう言って、並べられた書類を指差す。


「日程的にはどうだ?」

「あ。はい。問題はないかと」

「じゃあ、今月の20日はどうだ?」

「末ですか? 大丈夫……」

 宇津木さんがニヤッと笑って、ジャケットからさっきしまってた封筒を取り出す。


 ……て?


「社員会の招待状。契約社員には渡すことになってるんだ」

「仮面舞踏会!」

「仮装パーティーだ馬鹿。いくらなんでも舞踏会をやる余裕はないぞ」

 いや、余裕があるとかないとか、論点はそこなのか謎だけど。
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