シャッターの向こう側。
 店先で睨みっていたら、宇津木さんがふと視線を外した。

 その横顔を眺め、白い息が流れる様を見つめる。


 季節が変わるのも早い。


 そんな事を考えていたら、ちらっと宇津木さんが私を見て、それから空を見上げる。


 まるで〝見ろよ〟とでも言うように。


「………?」


 宇津木さんの視線を追って、空を見上げる。


 地上の光を反射して、紫色に染まる夜の曇り空。


 そこから白いモノがふっと降りてきた。


「……わぁ」


 ゆっくりと舞い降りる綿毛の様な白。


 冷たく、柔らかそうな結晶。


「初雪ですかね~?」

「かもな。寒いと思った」

「綺麗ですね。結晶なんて、こっちじゃ稀ですよね?」

「それだけ寒いって事だろ」

「…………」


 目を細めて宇津木さんを睨むと、不思議そうな顔と出会った。


 あのね。


「そんな現実的な事はどうでもいいんですよ!!」

「現実以外のなんだと言うんだ」

「そりゃ現実ですけど、もっと幻想的な答えが出ませんかね!?」

「出ると思うか?」

 淡々と無表情で言われて肩を落とした。

「……曲がりなりにもクリエーターの言うこととは思えません」

「俺はコピーライターじゃないからな。気の利いた事なんか言えるか」


 そりゃ私も人の事は言えませんけどね。


「でも……雪は嫌いじゃない」


 小さく呟く様なその言葉に、一瞬だけ息を止める。


「そう……なんですか?」


 解っている。


「ああ。雪は好きだな」


 解っている。


「……私も、です」


 私に向けられた言葉じゃないのは解っている。



 解っているけど……



 でも



 何となく、



 ちょっとだけ嬉しかった。















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