シャッターの向こう側。
 いや。

 確かに〝パイロット〟とは言ってたよ。

 言ってたけど、普通は飛行機のパイロットを想像するじゃない?


 普通の人はそれを選ぶと思うの。

 だいたいの人はそれを選ぶと思うの。


 だけど……

 明らかな軍帽。

 カーキ色のジャケットには様々な称号らしいバッチや勲章。

 中には鳥っぽいのもある。

 襟元にも、何やら刺繍や勲章が付いているし……


「何となく……」

 ヒトラーですか?

 思った瞬間吹き出した。

 いやぁ、やっぱり宇津木さんはある意味独創的だよね。

 パイロットって単語で、旧ドイツの空軍の軍服披露する人はいないと思うよ。

 あってもアメリカ空軍なら解るけど。

 何故それをチョイスするんだ!


 佐和子が隣で奇妙な顔をしていたけど、私は構わず笑っていて、次に出て来た会長が、鯛の着ぐるみを着ていたと後から知った。


 ……うちの会社は奥が深い。




「神崎ちゃん。楽しんでる?」

 立食ムード満点で無礼講ムードの会場の中、有野さんが近づいて来た。

「ああ、はい。とても」

「この子ったら、さっきから笑ってるんだから、何とかして」

 佐和子の言葉に、有野さんは首を傾げて微笑む。


 って。


 あれ?


「……なんか感じが変わりましたね?」

 ある意味で礼儀にうるさい佐和子が、今タメ口だったよね?

「……ん?」

 と、有野さんは佐和子を見た。

「言ってないんだ?」


 その笑顔はとても不穏。


 な、なになになに!?


「お、音信不通で……」

「え? 仕事中でも携帯出れるよ?」

 首を傾げたら、首を絞めかけられた。

「まっ……待った待った! ちょっ」

「余計な事を言わないの!」


 余計なのっ!?


 にじり寄る佐和子を、有野さんは羽交い締めにした。


「あ~」


 解った。


「上手くいったんだ」


 呟くと、有野さんはニヤリと佐和子の左腕を上げた。


 その薬指に光る銀色の指輪。
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