シャッターの向こう側。
 でも……

 努力してない訳でもないと思うんだ。

 気に入らないものは何度もやり直して残業。

 妥協はしないその姿勢は、あまりに淡々としてるから判りにくい。

 宇津木さんにとっての〝当たり前〟は他の人にはあまり伝わらない。


「俺よりお前になびくし」

 坂口さんの愚痴のような言葉に、宇津木さんは苦笑した。

「意味解らん」

「神崎ちゃんだってお前には素直だろ?」

 坂口さんは笑って、テラスに寄り掛かる。

「ピヨはお前に素直じゃないとでも言うのか?」

「お前と彼女のやり取りの様に、お互い言いたい放題な感じにはならなったな」

 宇津木さんはしばらく何か考えるように腕を組み。


 しばらくして溜め息をついた。


「お前が何を気にしているかしらんが」

「うん?」

「あれは弟みたいなもんだ」

「…………」


 ……弟?

 女ですらあり得ないですか?


「やる事なす事やんちゃだし、何するかわからないし、ガキくさいし」


 宇津木さんは淡々と呟いて、坂口さんを見た。


「だから、お前が気にすることはない」


 もはやすでに対象外過ぎるってことですか?

 全然眼中にもないって事ですか?


 そう言う意味ですよね。


 そう言うことですよね?



 気がつけば握りしめていた掌を開き、小さく息を吐く。

 気がつかない訳でもなかったです。

 そんな事、言われるまでもなく。



 だって宇津木さんには彼女もいるし。

 あれだけ綺麗な彼女がいるわけだし。

 私なんて女らしくもないし。

 そりゃー口が裂けても女らしくなんてないし。



 立ちあがると、テラスの二人が私の方を見たのが解った。



 帰ろう。


 疲れた。


 とっても疲れた。


 疲れたから……


 会場に入ると、入口の所で佐和子たちと鉢合わせした。


「ビンゴ大会始まるって。探しに行くところだったのよ」

 佐和子がビンゴカードをヒラヒラしてるのが見えたけど、それに首を振った。

「帰る」

「まだ始まったばかりよ?」

「うん。疲れたし。実は明日から出張なんだよね」

 有野さんが入口の方を見て、それから私を見た。

「送る?」

「そこまではいいですよ」

 顔を合わせた二人に手を振って、また会場を出る。
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