シャッターの向こう側。
 見るとテラスにはすでに人影はなかった。

 それを何となく不思議に思いながらも、クロークで預けた荷物を返してもらって、着替えに使った部屋に向かう。



 本当に疲れた。


 確かに、別に努力していた訳じゃない。


 それは自分が解ってる。


 解ってるけど……


 解ってるからこそ……疲れるかもしれない。


「…………」


 私、きっといつも逃げてるんだな。

 逃げていると気づいても、どうしようもない。

 逃げて逃げて、どうしようもない所まで来て。


 身動きなんて取れなくなって。



 でも。

 立ち止まるなんて事もしない。

 可愛い女の子なんかにはなれないもの。

 今更、なれないもの。

 ないものねだりしても、どうしようもないもの。


 私は私でしかないもの。


 私以外になるつもりはないもの。


 私以外にはなれないもの。


 誰もいない一室に立ち、薄暗いライトをつける。

 それから、頭に被ったベールを取り、綺麗に折り畳む。

 サッシュベルトを引き抜く音が小さく響く。

 シャラシャラと微かな音を響かせながら、アクセサリーを外す。

 淡々と着替えをして、荷物を脱いだ衣装を綺麗に紙袋に入れた。



 ……なんだか、妙に違和感がある。

 目の前にあるのに、どこか遠いような感覚。


 訳が解らない。


 自分で決めてきたことじゃない。

 自分で決めたことじゃない。


 だけど


 だけど息苦しい。


 その感覚だけはちゃんとあって。


 とても自然に、


 とても当たり前に、


 当たり前すぎて。

 当たり前がおかしいことにも気付かないで。


 まだ引き返せるんじゃないかって思ってた。

 まだ傷つかないでいれるんじゃないかって。


 思ってた。




 でもいつの間にか……

 気づかないうちに

 いつの間にか……


 静かに、ゆっくりと……


 好き。


 好きなの。


 これだけは間違いないの。


 変えられるものじゃないの。



 〝気付いたとき〟には、後戻りはできなかったの。


 後戻りするつもりもないの。



 なら……



 私は歩いていくしかないんだよね──……













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