シャッターの向こう側。
「それに雪ちゃんはお仕事中でしょう? ちゃんと本業をやらないと」

 おばさんはそう言ってくれたけど。

 三食寝床もついて、お客さんのご飯の手伝いと、風呂掃除だけって言うのは気が引けると言うか。

「うちは小さなとこだから。気にしなくてもいいのよ~」

 おばさんはケラケラ笑って外を眺めた。

「じゃ、やっぱり雪掻きを手伝ってもらおうかな」

「喜んで!」

「いやぁ、最後にはへこたれるよ」

「暖かい格好するのよ!」

 おじさんの後ろ向きな予言と、おばさんの助言を聞きながら頷く。

 セーターにダウンコート、手袋に帽子、「それじゃまだまだ」と言うおばさんにパンダさんのイヤーマフを借りて挑んだ。




「結構……重労働ですね」

 ポツリと呟くと、おばさんも息を切らしながら頷く。

「雪は……どんどん降るから。毎日コレが戦争よ」

 雪を掻いている間も、ゆらゆらと雪が降っている。


 毛糸の手袋なんかじゃ、全然寒い。


「身も凍りそう」

「それをシバレルって言うのよね」

 そうか、これがシバレルって言うのか。

 と、妙に納得。

 結局1時間かけてどうにか玄関先の雪を除けると、二人で部屋の掃除もチャカチャカ終わらせて、おばさんが〝ご褒美〟と称しココアを入れてくれた。


「今年は雪は少ないって言うけど、ここらへんは多いから。屋根がつぶれなきゃいけど」

「はは……」


 本当に戦争だ。

 ココアを一口飲むと、甘い香りと一緒にチョコレートの風味が口に広がる。

 優しく美味しい。


 じゃなくて、考えないと。

 いつまでも居候している訳にもいかないし。


「ぼんやりして、どうかしたの?」

 おばさんはお昼の用意なのか、ジャガ芋を剥きながら顔を上げる。

「いや、いろいろと考えてまして」

「いろいろとって、便利な日本語よね」

「…………」


 そうかも知れない。

 確かに使い勝手はいいものね。

 あまり気にした事はないけど。


 またまたぼんやりしていたら、急にスマホの着信が鳴った。


 名前を見て、溜め息をつく。
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