シャッターの向こう側。
「はい。神崎ですけど」

 と、無愛想に出ると、

『当たり前だ。お前に連絡してお前以外が出たら事件だ』

 確かにごもっともだけどさ。

 これまた無愛想な声が返って来た。

 宇津木さんらしいと言えば、宇津木さんらしい。

「何か用ですか?」

『お前の写真』

 私の写真?

『……と一緒に、空港券と財布が入っていたが。生きてるのか?』

「…………」


 え……


「えへ☆」

『えへじゃない! お前は馬鹿か!』


 怒鳴り声にスマホを遠ざけると、その声が聞こえたらしいおばさんも目を丸くしてスマホを眺める。


『一人で行かせた俺が馬鹿なのか、単にお前が大馬鹿なのか、かなり悩むぞ!』

 離れていても、よく聞こえる声にビックリだ~。

 と言うか、そんな事で悩むなんて、もっとビックリだ~。

「まぁ、落ち着いて下さいよ。生きてますから」

『お前は周りに迷惑をかけないつもりはないのか』

「私がいつも迷惑かけてるみたいに言わないで下さいよ」

『じゃあ、周りに心配をさせないつもりはないのか』


 心配……


「心配してくれましたか?」


つい出て来た言葉に、


『当たり前だ!』


 そう言って、通話が切れた。


「…………」


 おいおいおい。


 それだけ?

 ねえ。

 それだけの為に電話してきたの?

 有り得ないでしょ。

 有り得なさ過ぎるでしょ。



 ポカンとしてると、おばさんがクスクス笑って、剥き終わったジャガ芋を水にさらしていた。

「彼氏?」

「まさか。会社の先輩です」

「相当心配してるみたいね」

「責任を感じてるんじゃないですか? 保護者みたいなものですから」

「そうなの?」


 そうなんです……と、言いかけて、また着信があった。

「はいはい。なんですか」

 投げやりに出ると、

『悪い。用件を忘れた』

 どことなく下手に出られた。

『とにかく、住所を言え。住所を』

「え? 住所ですか?」

『お前はホテルにいないだろう』

 お財布を送ってくれるのかな。

 おばさんに住所を教えてもらって、それを告げると、宇津木さんはおかしな事を言いだした。
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