シャッターの向こう側。
 って言っても、昼食の用意をするだけして、表に出て来たから知らない。


 ……そう願っておこう。


 カメラを片手に、スキー場を眺める。

 ……てか、あれよね。

 スキー雑誌に使う訳じゃないから、スキーヤーを撮っても意味はないよね。


 冬の風物詩ではあるけど……


 うん。

 なんかやっぱり違う。

 人を撮りたい訳じゃないもの。

 雪を中心に撮りたい。

 そりゃ~雪だらけだけど……

 だから雪を撮りたい。


 カメラキャップを外して、ファインダーを覗く。


 そこに古い木造の家が見えた。

 屋根はトタン屋根って言うのかな?

 玄関らしきガラスの引き戸があって、その横にある雪山と、屋根の落ちた雪が繋がっていて雪に埋もれてる。


「…………」


 人家かな。

 軽トラがあるって事は空き家じゃないよね。


 ……と、すると。


 とりあえず戸口をガラガラ開けて飛び込んだ。

「すみません!」

 勢いよく声をあげると、玄関先で長靴を履いていたおじいちゃんが目を丸くして固まっていた。


「あの。このお家を写真に撮らせてもらいたいんですけど、いいでしょうか?」


「…………」


「あの~。駄目でしょうか?」


「…………」


「…………」


 あの。

 おじいちゃん?


「……ああ、びっくりした」

「あ……」

 それもそうだ。

「すみません。慌ててたもので」

「誰かと思ったら、敬三んとこの雪だるまか」


 ん?


「……はい?」

 雪だるま?

「あれだろう? 敬三んとこの裏山で雪だるまになってたねっちゃんだろ?」


 ……ねっちゃん?


「……東京から来て、路頭に迷ったねぇちゃんだべさ」

 ああ。姉ちゃんって意味か。

「あ──……はい」

 最近、東京から来て、雪だるまになって路頭に迷った人が他にいるとは思えない。


 そして、初めて知ったよ。


 ペンションのおじさん、敬三って言うんだ。
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