シャッターの向こう側。
 思えば、いつもそこに宇津木さんが居た様な気がする。


 前を歩いている事もあるけれど……


 いつも宇津木さんは私の後ろに立っていた。


 宇津木さんと一緒に撮影をした時は、背後から風を感じた事がない。

 当たり前になっていて、気付かなかった事。

 気付こうと思えば、気付けた事。


 だって、気付いちゃったら怖いもの。

 何もかもめちゃくちゃになりそうで……


 怖いもの。


 視線が合うことは滅多になかった。

 振り返らなかったせいだけど……


「……あはは」


 考えても仕方がない事ばかりだ。

 プロになることだけ考えよう……って、思ってるんだから。

 それだけに集中しようって思ってるんだから。


 本気なんだから。



 そう思って……

 思っているのに、いつの間にか宇津木さんの事ばかり考えてる。

 これじゃイケないでしょ。

 うん。

 不健全過ぎるでしょ。


 あれかな。

 もっと離れれば考えないかな。


 いっその事、お祖父ちゃんに付いて外国でも行こうか。

 オーストラリアは自然が豊富だし。


 あ。

 でも英語は話せない。

 パスポートもないし。


 でも……


 と、歩きだした途端、


「きゃ……っ」


 足元の雪が横滑りした。



 やばい!

 カメラ!!

 カメラを慌てて高く持ち上げて……


ボフッ!


「…………」



 し、新雪でよかったかも。

 じゃなきゃ、血みどろ?

 顔は雪に埋まったけど。


「ぷはっ!」


 息苦しくなって起き上がる。


「あ~、もう……本当に雪だるまだよ」

 ついでだから、もう座り込んでしまえ。

 でも、降り積もったばかりの雪は、布越しだと妙にフカフカしていて気持ちいいかも。


「…………」


 思い切って、寝転んじゃえ☆
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