シャッターの向こう側。

飛行機……もしくは隣人

******




 次の日。


「それで、お前は俺を待ちぼうけさせた訳か?」

 何故か宇津木さんはペンションの台所に座ってて、腕組みして偉そうに呟いた。


「俺は14時には着くと言ってなかったか」

 言ってたかなぁ……

 うん。

 言ってたね☆

「今は何時だ?」

「きっとたぶん16時☆」

「たぶんじゃなく、もう16時だバカ!」

 スパンと頭を叩かれて、隣ではおばさんがクスクス笑っている。


 ……だって、昨日から写真欲がメラメラと燃え盛ってるんだもの。

 朝一でおばさんの手伝いで泊まりのお客様に朝食をお出しして。

 自由時間と言われて、荷造りを済ませると、また昨日のおじいちゃんのうちに行って。

 それからゴンドラに乗って、スキー場の真上から雑木林まで歩いて行って、スタッフの人に注意されたけど。


 久しぶりに楽しかった。


「とっても楽しかったです!」

「……その様だな」

 はい!

「だが、おかげであまり時間がない。とにかく帰るぞ」

 宇津木さんは立ち上がり、おばさんの方を見た。

「うちの不詳の社員がご迷惑をおかけしました」

 頭を下げる宇津木さんに、おばさんは慌てて手を振る。

「こちらこそ楽しかっ……あ。助かりましたから」

 そう言って、おばさんはエプロンのポッケから白い封筒を取り出して、宇津木さんと私とを交互に見た。

「雪ちゃんのバイト代です」

 と、封筒を宇津木さんに差し出してる。

「え。おばさんいいよ!」

 いらないよ!

「よくない。バイトはバイトなんだから。お時給分は胸はってもらいなさい」

 ……いや。

 だけど、何故に宇津木さんに渡すの?

「……この人の方がしっかりしていそうだから。預けておくわね?」

 おばさんはニヤニヤと笑って、宇津木さんに封筒を押し付けた。

「向こうに着くまで管理してあげて下さい。落とさない様に」

 宇津木さんは困ったような、笑い出しそうな……なんとも複雑怪奇な顔で封筒を受け取った。


「……解りました」

「はいはい。じゃ、雪ちゃん、今度はお客様でおいでね」

「あ、はい! お世話になりましたっ」

 ぺこんと頭を下げて、荷物を持ってペンションを後にした。
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