シャッターの向こう側。
 バス停までの雪道を、お互いに無言で歩く。

 今日は風が緩い。

 道路脇にこれでもかと積み上げられた雪山から、その風に乗ってサラサラと雪が流れ落ちて来て……

 宇津木さんが直撃されてる。


「ぶは……っ」

「………ぷっ」

 思わずウケた。


「今……笑ったか?」

 え?

「誰がですか?」

 と、まわりを見ると、むっとした顔が返ってきた。


「雪は慣れてないんだ」

「でしょうねぇ。少し俯いて歩くといいですよ」

「……俯いてたら前が見えん」

「誰がそこまで俯けと言いましたか」

「お前?」

「少しって言ったでしょうが、少しって」

 宇津木さんはブツブツ言いながら、また歩きだした。


「それにしても……お前は元気そうだな」

「それはもう。元気ですよ」

「また音信不通にしてただろ」

「してませんよ」

「そうか? 結局、会社のパーティーに来なかったじゃないか」

「…………」


 行きましたよ。

「……ナチズムでしたね」

 呟いたら、目の前の宇津木さんが視界から消え……


「わきゃぁ!」

「うわ……っ」


 何か柔らかいものを押し潰した。


 ……って、暖かい?


「早くどけっ! 苦しい!」

 は……はい!?

 顔を上げると至近距離に宇津木さんの顔があって……


「……ふひっ」


 我ながら訳の解らない声が出た。


 お互いにそのまま固まって……


 あ~……

 睫毛、結構長いなぁ……


「お前ね。そんな至近距離で男を眺めるもんじゃないと思うぞ?」

 何を言って……

「と言うか、勘違いされるぞ?」

「……え?」

 って、何を?

 と、問う間もなく、振り落とされる。



「冷たいっ!!」

「俺だって冷たかったし、しかも重くて痛かった」


 重いは余計だ!!


「とにかく、パーティー来てたのか?」

「……一応」

「なら声くらいかけろよな。後半はブラブラしてたんだから」
< 309 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop