シャッターの向こう側。
「それでいいの?」

「はい」

「宇津木がプロになる邪魔になるとは、俺は思えないけど」

 解らない。

 解らないけど……

 どうしていいかすら、私には解らない。


「神崎さん」

 静かな声に、顔を上げる。

「簡単に諦めるな。宇津木は俺が保証するから。不器用なとこはあるけど、根はイイヤツなんだから」


 そんなの知ってます。


 知ってるけど……


 知ってるからって、どうにかなるとも……どうにかしたいとも思えない。


 だって、冴子さんがいるもの。

 私、冴子さんから宇津木さんを奪おうとか、宇津木さんに振り向いて貰おうとか……

 そんなの考えたくないもの。



 人を好きになるって、難しい。

 普通、恋愛って幸せな事だと思う。

 幸せになるのは悪い事じゃない。

 悪い事じゃないけど……


 何か一つ、ちょっとしたズレがあると誰かが悲しむ事になる。


 誰かが傷つくのが怖い。

 どこかで誰かが泣くのは怖い。

 上手くいかなくて、ぐちゃぐちゃになるのも怖い。


 苦しいもの。

 悲しいもの。


 それを知ってるもの……



 楽しいだけが恋じゃない。

 そんな事は判ってる。

 だけど、誰かを犠牲にしてまでどうにかしたいなんて思わない。


「…………」


 結局、私はただの偽善者なのかも知れない。


 ……そうなのかも知れない。

 でも、誰かが泣くなら、自分が泣く方がいいと思う。


 自分で勝手に理由を付けてるだけかも知れない。


 だけど、そんな風にしか考えられない。


「神崎さん」

「……はい?」

「君は君らしくして?」

 優しく言われて、微かに苦笑した。


 私らしいって……


「私は私以外にはなれないです」


 これが私なんだろう。

 誰かを傷つけたくないのも本当。


 裏を返せば、傷つけた事で傷つきたくないのも……



 私はどこまでも狡い……
< 321 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop