シャッターの向こう側。
「じゃ、今日の夕食はなしとして、俺は勝手に手を貸すね」

 ニコニコ言われて、口をあんぐりと開けた。

「あの……」

 人の話を聞いてましたか?

「だって別に宇津木本人にトライした訳でもないんでしょう?」

「え……あの。有野さ……?」

「一人で終わりにするのはまだ早いと思うな」

「え。だって明らかに彼女いますし」

「そこの所も合わせて、ちゃんと作戦を練っていくから」

「作戦とか、あの……そんなのは……」

「大丈夫だよ。加倉井にしたみたいな事はしないから」

 佐和子に何をしたかは知りませんけど。


 ちょっと待って。

 いろんな意味で待って!


「じゃあね。神崎さん」


 じゃあねじゃなーい!

「ちょっ……」


 横を擦り抜けて非常口の扉に手をかけた有野さんを掴むのと、非常口の扉が勝手に開いたのは同時だった。


 ガツン!と非常口の鉄扉が頭に直撃する。


「……大丈夫。神崎さん」

 心配そうな有野さんと、私を見て目をしばたたいてる宇津木さん。


 あまり……無事じゃないかも。

 立て続けに二度は痛い。

「何してるんだ?」

 宇津木さんの声は明らかに私に向けられていて、ちょっとムッとする。

「見れば解るでしょうが」

「いや。お前……帰ったんじゃなかったのか?」

「帰りかけに有野さんに会ったんです!」

 宇津木さんは苦笑してる有野さんと、私を交互に見ると、

「浮気……?」

 小さく呟いて、有野さんにニッコリとした笑顔を向けられた。

「宇津木、お前の口調は冗談に聞こえないって何度言えば解るんだ?」


 ……珍しい。


 宇津木さんが詰め寄られて引いてる。


「それにそんな事を言う前に、謝るのが普通だろう」

「あ。ごめん」

 ……いいえ。

 どうせ女扱いされてませんし。

「別にいいですよ」

 頭を摩りながら溜め息をつくと、宇津木さんがちらっと有野さんを見た。

「それで……有野さんは何をしてるんですか?」


 それだけで本当に終わりだよ。
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