シャッターの向こう側。
 普通、もう少しなんかない?

 てか、普通はもっとあるでしょう?


 そこまで女扱いしない訳?


 そこまでですかっ!?


「あ──……」

 と、有野さんが私をチラ見しながら眉を困らせる。

「そろそろ仕事終わるかと思って、飯を誘いに来た」

「ああ。そうでしたか……」

 ぼそぼそ呟いている宇津木さんを見ながら肩を竦めた。

 まぁ、いいか。

 もう私に関係ない話だし。

「じゃあ、お疲れ様です~」

 そう言って、階段に向かいかけて、


「待て」

「はぎゅ」

 マフラーを掴まれて首が絞まった。

「宇津木さん! 何回言えば首を絞めるのをやめるんですか!!」

「咄嗟に掴んだのがそれだった」

「腕とか肩とか選択肢は他にもあるでしょう! 何故、首に限定してるんですか!」

「それは誤解だ」

 呟いて腕を掴み直すと、グイッと引き寄せてきて耳元に顔を近づける。

「……俺を一人にするな」

「……う?」


 んん?


「この状況で俺を置いてくな。有野さんに絞られる」

「…………」


 それはそれは……

「私を盾に使う気ですか」

「当たり前」

「慎んでお断りしま……」

 言いかけた言葉が止まった。

 スルッと腕を掴んでいた手が伸びて来て肩に腕が回される。

 そのまま胸元に引き寄せられ、羽交い締めの格好になった。


「………っ」


 驚いたのは私だけじゃない。

 見上げた有野さんも目を丸くしていて、それから小さく笑った。


「どこに行こうか?」


 ど、どこって……


「帰りた……」


 グッと宇津木さんの腕の力が加わって、一気に息苦しいやら、恥ずかしいやら……


 ど、どうしよう。


 絶対に今、顔が赤い。

 間違いない。

 きっと赤い。


「とりあえず、下に下りましょうか」


 ぱっと腕が離れたと同時に、肩の荷物が軽くなる。


「え……」


 宇津木さんが私のバックを持って、タンタンと軽快に階段を下りながらニヤッと振り返った。


 や、やられたっ!!


「カ、カメラ~!!」


 もちろん、着いていく羽目になった。
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