シャッターの向こう側。
 そして着いたのは有野さん御用達の居酒屋。

 注文取りのおじさんが、眉を八の字にして笑っている。

「ビール3つ」

「ビール2つと烏龍茶で」

 何やら一発目のドリンクオーダーで静かに攻防を繰り広げる二人。

 それを眺めながら、宇津木さんの背後にあるバックを狙う私。


 てか、物質ってひどい。


 カメラ一台いくらすると思ってるワケ!?


 絶対に宇津木さんは解っててやったよね。

 なんて確信犯なんだ。

 こんちくしょうだわ。

 ブツブツ考えていたら、ドリンクオーダーは烏龍茶3つで手打ちとなったらしい。

「神崎さんは、烏龍茶でよかった?」

 有野さんはニッコリと柔らかい口調で首を傾げ、宇津木さんはなんか勝手に頷いている。

「ピヨが一人で飲むはずがないでしょう」

 どんな話になっていたか解んないけど、一人ってどういう事だろう?

「せっかく宇津木を酔わせようと思ったのに……」

 残念そうな有野さんを宇津木さんはちらっと見た。

「その前に、車の人がビールを頼むのはどうかと思います」

「俺は別に飲まない。だけど俺だけソフトドリンク頼んだら、お前が飲むだろ?」

「当たり前じゃないですか」

 そうだね~……

 宇津木さん飲めないし。


 てか、有野さんはどれだけ宇津木さんに飲ませる気満々だったんだろう。


「じゃ、大人しく定食メニューにするか」

 有野さんはおしぼりで手を拭いて、御品書きを差し出してくれた。

「居酒屋だけど、そういうメニューもあるから」

 最近、そういうのって多いですね。

「もともと食堂だったのが、少ない客層増やすために居酒屋になった所だから」

 今、ちらっと不況の波が押し寄せて来た感じMAXでしたね~。


 てか、有野さんてサラっとズバズバ言う人だよね。


 ……何を言うか全然予測つかないけど。


 運ばれて来た烏龍茶を飲みながら、注文をする男性陣の視線が向けられる。


「神崎さん。注文は?」

 ん?

「あ。私?」

「他に神崎がいるか?」

 メニューを決めろって言われたのは久しぶりだ。
< 324 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop