シャッターの向こう側。
 いつの間に植物園を出たんだろう。

 ……まぁ、いいか。

「じゃ、私はあっちを撮ってきます」

 襟首から宇津木さんの手をひっぺがして、ちゃんと服を直してから歩きだす。

 まずは、このムカつく男は男として多少は我慢しないと。

 仕事が円滑に行かないし……それは本意じゃないし。

 使いたい写真は使うだろうし、使わない写真は私の勉強道具にさせて貰おう。

 高橋さんの言葉を思い出しながら、うんうん頷くとカメラを覗いた。


 木立の間、遥か遠くに光を反射した煌めきが見える。


 ……湖の輝きかもしれない。


「…………」


 カメラをしばらく覗いたけど、何かしっくり来ない。

 もうちょっと行ってみよう。



「ピヨピヨ?」


 ……ここもイマイチ。


「なんですか」


 歩きながら首を傾げる。


「お前、また遊歩道から外れてるが」


 どうも、ピントが合わない。


「……いいんです」

 宇津木さんに適当に答えて、立ち止まった。


 ここなら良さそう。


 カメラを構え、考える。


 光を強調する?

 それとも抑える?


 いや、この場合は押さえない方が綺麗だと思う。


 気が済むまで撮って、そのまま歩きだした。


「ぐふっ……!!」

「だから、お前は何故そうやって、見当違いの方向に向かおうとする」

 またもや押さえ付けられた猫状態になって、宇津木さんを睨んだ。

「だって、湖じゃないですか」

「位置的に、このまま真っ直ぐ行くと、遊歩道には戻らない」


 今度は首を羽交い締めにされて、ずりずりと来た道に引きずられる。


「ちょっ……!! ぐ、ぐるじ……」

「つべこべ言わずにさっさと歩け」

 歩こうにも、だいたい後ろ向きに引きずられて、どうやって…!!


 かろうじてあった隙間に手を入れて、宇津木さんの腕から擦り抜けた。


「私を殺す気ですか!?」

 その叫びに宇津木さんは立ち止まり、ニヤリと笑う。
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