シャッターの向こう側。
『それで。何故、俺に電話してくる』

 一言一言区切る様に言う宇津木さんに、思わず目を細めた。

「一応ミュージックフェス繋がりですし、お礼申し上げようかと……」

『馬鹿かお前は』

 馬鹿じゃないやい!

 礼儀として、お礼申し上げたんじゃないか!

 私はおかしくない。

 絶対におかしくないよ!?


『前にも言ったじゃないか』


 前にも?


「何をですか」

『足掛かりなんてどこにでも転がってる。それをチャンスにするか、見逃すのか、それは自分次第。つまり俺は何もしてない』


 ……かなり昔に言われたかも知れない☆


『だから、礼を言われる筋合いはない』

「いいじゃないですか。気持ちの問題ですもん」

 お礼はお礼って、悪くないと思う。

『とりあえず、俺は仕事中』

 ……はいはい。

 うるさいって事ですね。

 全くもって気にも留めてないって事ですね。



 なんかもう、とことん落ち込むなぁ。


『だから今日の夜、空けておけ』

「は?」

『他も誘っておくから』

 え?

「何をですか?」

『とりあえず、おめでとう。じゃあ20時に会社に来い』

 はい?

 って、えぇ?


「あのっ!!」

 ……と、言った時には、すでに通話は途切れていた。


 え。

 ……と?


 今〝おめでとう〟って言ったよね?


 で?

「なんで会社?」

 他も誘うって何?

 よく解んないけど、20時に会社に行けばいい訳ね?

 頭の中をクエスチョンマークでいっぱいにしながら、部屋の大掃除を済ませ、19時には会社に向かった。
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