シャッターの向こう側。
「来たか」

 会社のホールに着くと、何故か宇津木さんと有野さん、それから佐和子がいて、宇津木さんの声に皆が振り返る。

「ちょっとあんた!」

 佐和子が勢いよく近づいて来て、ガッシリと肩を掴んだ。

「ななな何!?」

「名指しで仕事が来たんだって? どういう事よ! 何故私に1番に知らせないのよ!」

「え……あ、う」

「え、でも、あ、でもなくて!!」

 てか、肩掴んだまま揺さぶらないで~。

「頭がぐらぐら~……」

「佐和子。離さないと神崎さん青くなってるよ?」

 冷静な有野さんの声に、佐和子がちらっと顔を赤らめた。


「ごめんね。興奮してたみたい」

 興奮し過ぎだから。

「で、ごめんね? 私たち、今日は参加出来ないから」

「何に?」

「あんたのお祝いでしょ!! 運悪く、私たちはこれから親たちとご飯なのよ」


 え。

 え?

 ぇえ?

 ポカンとして宇津木さんを見ると、宇津木さんは肩を竦める。

「加納は期日間に合わなくなるから今日は行けないらしい。坂口にも断られた」


 坂口さん?

 って、それより、宇津木さんはお祝いをしてくれようとしたの?


「それでよければ飯でも食いに行くか?」

「行く……っ!!」


 勢いよく答えた私に、宇津木さんは苦笑して首を振った。


 そりゃ~行くに決まってる!

 だって嬉しいじゃない。

 ただただ嬉しい!

 佐和子はバンバン背中を叩くから痛いけど……かなり手加減もないけど。

 それだって嬉しい。


「おめでとう、雪」

「えへへ。実はまだ契約書とか見てないんだけどね」

「ちゃんと読むのよ?」

 ……う。

「うん」

「何かあったら相談しなさい」

「うん」

「ご飯も食べて、睡眠もとるのよ?」

「…………」


 ちょっと佐和子さん。


「お母さんみたいよ?」

「だってお母さんになるもの」


 しれっとして言う佐和子に、目を丸くしてお腹に注目が集まった。


「え。何……できちゃった婚なの?」

「違うわよ」

「そ、そう」

「でもきっとすぐお母さんよ」


 は?
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