シャッターの向こう側。
 ポカンとした私に対して、宇津木さんは吹き出した。


 え。

 何が?

 意味が解ったの?


「あ~……。加倉井さん、それはビル内で言う事じゃないような気がする」


 宇津木さんは有野さんに睨まれながら、苦し紛れに呟いた。


 よく解らないんだけど。


 キョロキョロすると、有野さんは苦笑した。

「神崎さんは解らなくてもいいよ」

「仲間外れですか~?」

「うん。照れるからね」


 照れる事なの?

 ニヤニヤしてる佐和子を余所に、有野さんは宇津木さんを連れ行って何か耳打ちしている。


「ね。なんで有野さんは照れるの?」

「あの人、手が早いから」


 手が……?


 手……


「……ぶっ」


 そ、それは夫婦の営みのお話しですか?

 あれだよね、夜の生活の話だよね!?

「有野さんてエッチなんだ」

「普通じゃない? プラトニックなのも捨て難いけれどね」

 そう言って佐和子が有野さんの方を向いたので、自然に私も宇津木さんを見る。


 何かコソコソと話してる。


「何を話してるのかね~?」

「口止めでもしているんじゃないかしら」

「口止め……」

 ……してもこの場は無意味だと思うんだけど。


 ふっと視線を上げた宇津木さんと目が合った。


 何だろう?

 一瞬だけ難しい顔をして、有野さんに肩を叩かれてる。


「じゃ、神崎さん。美味しいもの食べておいでね」

「あ。はい」

 有野さんと佐和子は手を振って、宇津木さんと二人で残された。


「ピヨ」

「はい?」

「あっさり、こってり、どっちがいい」

「うーん。元気にこってりがいいです」

「それは何だ」

「宇津木さんお酒飲まないし、イタリアンな所とかどうですか?」

「別に俺に合わせなくてもいいぞ?」

「宇津木さんなら、美味しいパスタ知ってそうだから」

 ニッコリすると、微かな苦笑が返ってきた。
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