シャッターの向こう側。
「今日はお前の好きな所にしろ」

「んじゃラザニアがいいです」

 何となくミートソースな気分だし。

「だから……」

「ワインを一本付けて下さい」


 宇津木さんの表情が空白になった。


「…………」


 うん。

 なかなか見れるものじゃないかも。


 しっかし、顔がいいな。

 確かに宇津木さんて、嫌味な顔をしてなきゃ~好青年なんだよね。

 でも、無表情だと……


「人間ぽくない」

「それは俺か?」


 おぉう。

 超睨まれてる。


「え……えへっ☆」

「えへ、じゃない。お前の言動はいつも墓穴を掘るな」

「好きで掘ってる訳じゃないです」

 口から勝手に出てくのは確かだけど。

「まぁいい。ワイン一本って、お前が飲むんだろう?」

「もちろん!」

 宇津木さんが歩きだしたのについて行きながら、その距離に少しだけ苦笑する。


 いつも私は半歩後ろ。


 立ち止まると、宇津木さんが後ろ。


 並んで歩く事もない。


「お前って案外酒豪だな」

「嗜むくらいですよ」

「どこがだ」

 ブツブツ言いつつも、宇津木さんはイタリアンレストランに連れていってくれた。

「明日は仕事はないのか?」

 私はワイン。

 宇津木さんは葡萄ジュースのグラスを持ち、とりあえず乾杯。

「ないですよ~。今野さんに休めって言われてます」

「今野に? それは珍しいな」

「そうなんですか?」

 このラザニア美味しいな。

 ……と、思っていたら、宇津木さんが真面目な顔で頷いた。

「あれはどちらかと言うと、倒れるまで写真を撮り続ける奴だ」

「ああ。そんな所はありますね」

「お前も似たようなもんだろうが」

「…………」


 ……何故、睨まれるのかな~?


「その今野に休めって言われるのは、相当なもんだと思うが」

「たいしたことないです。写真を撮ってると、気が楽なんで」

「楽しくはない訳か?」


 ……あまり考えた事はなかったかな。
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