シャッターの向こう側。
 漠然としてる訳じゃないけど……

 写真を撮るのは集中出来て、本当に余計な事を考えなくて済む。

 それが逃げ道になってる……とは、何となく気付いてる。


 逃げて、避けて、臆病者。


「写真を撮るのは楽しいですよ」

 何故か溜め息が返って来た。

「忘れてた。お前は注文通りにも撮れるんだった」

「宇津木さんは注文なんてしないじゃないですか」

 ワインボトルから真紅の液体をグラスに注いで、その赤を光に照らす。


 光の加減で赤紫にも見えた。

 クルクルまわすと、液体が微かに揺れて渦を作る。


 それが綺麗。


「どおりで大人しいのばかりな訳だ。最近のはお前の主観が見えない」

 視線をグラスから宇津木さんに移した。

「ボツになりました?」

「いや? 俺の好みはよく解ってるみたいだな」


 ……そうなのかな?


 よく解らない。


 でも、宇津木さんと私は〝見る〟所がどこか似ているから。


「お前さ……」

「はい?」

「元気だったか?」

「見たら解るじゃないですか」

 何を言ってますか。

「見ても解らない。お前はどっちかと言うと笑いながら我慢するとこがあるから」

 ぎょっとして瞬きした。

 てか、何を突然言ってるの?

 いきなりメンタル面のお話を始めた訳?


 何故、突然……


「お前さ」

「は、はい?」

「坂口といつ別れたんだ?」

「ふぇ?」


 思わずキョロキョロすると、


「お前だ、お前」


 指を指された。


 そりゃそうだね。


「ぇえと……かなり前ですか?」

「……なんで言わない」

「言う事でもないでしょ」

「イキナリ他人行儀だな」

「他人ですから」


 ピシッ!と、デコピンをくらった。


「い、痛いですから~」

「まぁな」

 解っててやってるのか!?

「あれか、お前の写真が薄暗くなった時か?」

「薄暗くなった時?」

「楽しそうな写真と、そうじゃないのが入り乱れてた時期か?」
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