シャッターの向こう側。
 あれは……

 結局、私自身が何を撮っていたのか迷走していた時期だ。

「それで暗くなってたのか?」

 ちょっと優しい声の宇津木さんに、キッパリ首を振る。

「いえ。どちらかと言うと、スッキリしました」

 ラザニアを食べつつ答えたら、宇津木さんが目を丸くした。

「ピヨ……」

「はい?」

「もしかして、お前から別れたのか?」

「だって……」


 好きじゃなかったんだもん。

 確かに嫌いでもないけど。

 そんな事を言うとぶったたかれそうだけど、お付き合いを持続させる程には好きじゃなかった。

 たぶん、私は私の気持ちすら迷走していたと思う。


 他の人が好きだったのに、違う人とお付き合いをして……

 そもそもそれが大きな間違いで。

 最初から何かが違うと思っていたから。


「そんな事はいいですから。宇津木さんもそんな難しい顔してないで、食べないと冷めちゃいますよ?」

 言われて、宇津木さんが目の前の料理に視線を落とす。


「お前らしくない」

「何がですか」

「妙に淡々としてて、らしくない」


 正直、イラッとした。


 ねぇ。


 私らしいって何でしょうかね?


 私らしいってのはどんな事?

 宇津木さんの知ってる〝私〟じゃなきゃらしくないの?

 それでなくても必死なのに。

 宇津木さんの事を考えないようにしなきゃって必死なのに。

 必死にビジネスの関係に留めようとしてるのに……!!


 なんでそんな事を言われなきゃならないの?


「…………」



 無理……


 今は頑張れない。


 でも、宇津木さんにそんな姿を見せるつもりはない。

 子供じゃあるまいし、見せる訳にも行かないじゃないか。


 無い物ねだりして、駄々をこねるなんて事……出来るはずがないじゃないか。


「宇津木さん」

「……ん」

「なんか酔っぱらったみたいなんで。今日はお開きにしましょうか」


 フォークを置いてコートを手に取ると、素早く立ち上がった。


「ごちそうさまです」

 目を丸くしている宇津木さんに頭を下げて、さっさと店を出る。
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