シャッターの向こう側。
「それに、聞かれたなら全面的に否定したと思うぞ?」

「全面的……に?」

「お前、気付かなかったのか」

 何に?

「確かに冴子は化粧はするし、仕種なんかもお前は足元にも及ばない」

「文句ですか」

「いや。だいたいはオーバー過ぎて楽に見破られるんだ」


 なんの話だ?


「宇津木遼一と言う」

「は?」

「宇津木遼一。アイツは俺の兄だ」

「…………」


 はぃい!?


「……驚いたか」


 それはもう。


「だって冴子さん、声質は女の子そのものじゃ……っ」

「そんなものは知らん」

「髪もサラサラだし、キューティクル痛んでないし、胸もあるよ!?」

「……そんなもん、手入れとか手術とかでどうにかなるらしい」


 そ、そうなんだ。


「だから冴子と付き合ってるとか、そういうのはやめろ」

「あ。はい……」


 重い溜め息をつく宇津木さんに、思わず俯いた。


 つまり、お互いにフリーだったということですか。


 でも……


 冴子さんの存在がなくなったからって、宇津木さんが私を〝弟〟だと言ったのには変わりはない。

 しかも私、今、告白したも同然なんじゃないかな?


 うん。


 勢いに任せてたけど、告白じゃないか。


 うん。

 ここはやっぱり……



「失礼しま……」


 くるっと背を向けたら、


「そっち行ったら公園があるぞ?」



 言われて立ち止まる。



 人の弱点をつくとは、ひどいと思う。



「神崎雪」

「はい」

 振り返らずに返事をして、そっと宇津木さんが近づいて来たのに気がついた。

「アレはお前も悪い」

「私……?」

「どこで聞いてたか知らんが、坂口に俺が言った事を気にしてる訳だろう?」

「…………」


 それは〝弟〟発言の事?


「や。私、女らしいとは自分でも思いませんから」

「そうだな」

「怒らせたい訳ですか?」

 小さな笑い声が聞こえて、両肩に宇津木さんの腕が伸びてきたかと思った瞬間。



 私は宇津木さんに抱きしめられていた。
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