シャッターの向こう側。
「お前ごときの為に、人生棒に振るほど馬鹿じゃない」

「普通、首を締められたら人間は息が出来ないんです!!」

 宇津木さんはますますニヤニヤして、腕を組むと首を振った。

「それくらいで騒ぐな」


 いやいやいや。


 普通は騒ぐし、苦しいだろうがっ!


「だいたいな。人間、そう簡単には死なないから安心しろ」

「できるかっ!!」

 逆切れされたのか睨まれる。

 ……何故私が睨まれるかわからない。

「しろ」

「しないっ」

「……強情だなぁ」

 宇津木さんは溜め息をつくと、すんなりと背を向けて歩きだした。


「…………」


 だから……


「放置しないで下さい!!」

 慌てて後を追うと、宇津木さんは涼しい顔で私を見る。

「なんだ。納得したか?」

「全然しないですけど。とりあえず、こっちから湖に出ないんですよね?」

「お前は地図くらい見るべきだな」

 宇津木さんは淡々と言うと、そのまま先を歩きだす。

 背が高いので足の長さも違うし、こっちはカメラの機材だけで結構荷物も多い。

 結局、小走りでついて行く羽目になり、一人勝手に歩いている宇津木さんに溜め息をついた。


 人に合わせようと言う気配すらないのかしら。


「今日はあいにくの曇り空だな」

 湖の柵に寄りかかり、空を振り仰いだ宇津木さんに倣って空を見上げる。

 空は気づけば薄曇り。

 ホテルを出る時には晴れていたのに、天候だけはままならないのが世の常というものだろう。


 薄灰色の雲を眺め、首を傾げる。

 晴れの日には晴れの日の。

 曇りの日には曇りの日の。

 雨の日には雨の日の……それぞれ個性はあるものだ。

 それならそれで撮りようはある。

 だいたい、カメラマンは1に根性。

 2に忍耐。

 3に体力だ。


 ……と、お祖父ちゃんから教えてもらったことがある。

 晴れの日を撮りたいのであれば、幾日でも何時間でも待てばいい。

 ……ただ残念なことに、ここに居れるのはあと数日しかない。

 その間に満足のいくものを……


 無言でカメラを構えた私の後ろに、宇津木さんが立った。
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