シャッターの向こう側。
「怒らせるのもいいかもなー」


 どうして?


 どうして、宇津木さんは私を抱きしめるの?


 どうして、私はここにいるの?


 ねぇ……


 居てもいいの?


「お前はメチャメチャ怒らないと本音が出てこないんだな」

「……そんな事はないです」

「あるだろう。実際、大雑把な性格してるのか、繊細なのか解らなかった」

「よく混乱する性格です」

「それは難しいな」


 クスクス笑われて、肩に重みがかかる。


「複雑だったのは確かだ」


 それは耳元で囁かれた言葉で。


 とても近くに宇津木さんの温もりがあって。


 何故か身体が竦んだ。


「宇津木さ……」

「なんだ?」

「何をしてるか解ってます?」

「さぁな。もう遠慮しなくてもいいのは解ってる」


 遠慮?

 宇津木さんが遠慮?

 誰に?


 と言うか……


「私に遠慮して、離れてくれる……とか、しませんか?」

「嫌だね」


 嫌だとか言うな───!!!


「私も一応、女の端くれなんですが」

「知ってる」

「宇津木さんて、こういう事をするのが好きなんですか?」

「俺も男なんで」


 いや、あの。


「私……勘違いしやすいんですが」


 こんな事を言いながらも、心臓がバクバクして、破裂寸前なんですが……!


「……しろよ」


 ギュッと抱きしめられて、小さな溜め息が聞こえた。


「というか、嫌なら抵抗しろ。好きでもないなら暴れろ」


 嫌じゃないし。


 いや……心臓が持たないかもしれないから、それが嫌と言えば嫌だけど。


「だから、俺も勘違いしておく」


 何を?


「お前は、俺が好きだろう?」


 そんな事……


 そんな事は解ってるじゃない。


 解ってるのに、私にハッキリ言わせるつもり?



「好きだろう?」



 その声が、どこか優しく響いて。




 そうと気付いた瞬間、目の前の景色が歪んだ。
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