シャッターの向こう側。
「お前は集中すると、どこにでも紛れ込むからな」

「宇津木さんだって人の事を言えない」

「お前よりひどくない」


 それは間違いない。


「くるくる動き回るお前を見てると、飽きる事がないな」

「くるくるなんて回ってない」

「……誰がホントにくるくる回ってると言った」

「宇津木さん?」

「……そういう意味でもない」


 宇津木さんは大きく溜め息をついて、抱きしめていた腕を離してくれた。


「いつだか解らない。お前を立ち止まらせようとしてたのに気付いたのは」


 向き直ると、少しだけ皮肉な笑み。


「実際、あまり深く考えた事もない。ないが……」


 ないが……?


「無意識の行動って怖いよな?」

「聞かれても困る」


 本気で困る。


 困るけど……


「まぁ、そういう事だ」


 締め括った!


 ちょっとすごく簡単に締め括ったよ!?



 てか、締め括るもの!?

 締め括っちゃう事柄!?


 そういうもん!?

 そんな──……


「何を考えてるか解らんが、とりあえず」

「とりあえず?」

「場所を変えるか」


 はぁ!?


「ギャラリーが増えた」

「ギャラリー……?」


 ……と、視線を宇津木さんの後ろに向けて──……


 なんだろう。

 ニヤニヤとした酔っ払ったスーツ姿や、ヒソヒソ話のお姉様方がいつの間にかそこに居て……

 宇津木さんはキュッと私の手を握るとおもむろに歩きだした。


「とりあえず、アレだ」

「なんですか」

「冴子の店に行こう」

「冴子さんの店?」

「そろそろ開店するはずだし、お前も見れば納得するだろう」


 そう言って、タクシーに詰め込まれた。


 向かった先は超有名、夜の繁華街で。



 『Crash』とロゴが書かれた黒い磨りガラスを開けた瞬間。

「あら……」

 と言う、低い声に出会った。
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