シャッターの向こう側。
「冴子ちゃん、弟さんが見えたわよぅ」

 そう言っている、一見すると綺麗な着物姿のおばさんの声は太い。


 目を白黒していると、奥から白いスーツ姿の冴子さんが顔を出した。

 ユルふわ巻き髪。

 もちろんお化粧もバッチリ。

 白いスーツの下はピンクのレースがついたキャミソールで、首もとには同系色のシフォンのスカーフ。


「珍しい……」


 そう呟く声は明らかにソプラノで。

 ちらっと繋がれた私たちの手元を見て、艶やかに微笑んだ。


「やっとくっついたの?」


 楽しそうに言われて、顔が熱くなる。


「コイツの祝い」

「お祝い?」

「名指しで仕事が来たらしい」

「あら。ホントにお祝いね! ピンドンでも開けちゃう?」

「……勘弁してくれ」

 そう言いながら、どんどん宇津木さんは店に入って行き。

 お店のお姉様たちに、一気に囲まれた。


「いやだ。泣いてたの~?」

 冴子さんに覗きこまれて、宇津木さんが不機嫌な顔をする。

「お前のせいだ、お前の」

「何でよ。私は何もしてないわよ」

「俺とお前が付き合いしてると思い込んでいたらしい」

 冴子さんは目を丸くして、軽く手を振った。

「やめてよ。こんな可愛くない弟とだなんて気持ち悪い」


 気持ち悪いって言った。


 宇津木さん捕まえて〝気持ち悪い〟……


「じゃ、晴れてお祝いね!」

 ポン!とどこかで、コルクが抜ける様な音がして、さっきの着物の人がニコニコと背の高いグラスを二つ持ってきた。


「いや……俺は──……」

「彼女のお祝いに飲まない男は最低よ!」

 その呟きに、宇津木さんが情けない顔でグラスを持った。


「あ、待って待って。せっかくだから、カメラカメラ」

「あ。私が写しま……」

「雪ちゃん。主役が写らなくてどうするのよ」

 冴子さんに肩を掴まれて、ぐいぐい宇津木さんの方に押しやられた。
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