シャッターの向こう側。
 今の私に出来るだけ。


 出来うる限り満足できるものを。


 それだけを念じてカメラのレンズを空に向ける。



 ……雲の流れが早い。

 風が強いんだろう。


 上空の白い雲と、灰色の雲が混ざり合う。

 陽の光が輝いて、雲の隙間を照らし出す。


 その現象を何と呼ぶのかは私は知らない。


 ただ、光が雲間を照らし、光の柱のようになって湖に映し出される。


 難しい解釈は、それこそ学者の先生だとかに任せよう。

 私は見たままを、感じたままを写し出せればそれでいい。


 ただ……

 自然ってのは、ままならないのはホント。

 結局、西日になるまで待ってみたけど、思う所に雲が来なくてカメラを下ろした。

「今日は駄目ですね。明日、また昼ごろに来てみます」

 あっさりと言った私に、宇津木さんは座っていたベンチから立ち上がり、ニヤニヤと笑うだけだ。

「なんですか」

「別に?」


 ……こういう時って、からかって来るんだよな~。


 という、私の予想に反して、宇津木さんは何も言わずにジャケットの胸ポケットから紙片を取り出した。

「今からだと、19時30分のシャトルバスに間に合うな」

 そう言って歩き出す。


 ……おお。

 なんか珍しい。

 瞬きをしながら小走りでついて行き、宇津木さんの隣に並んだ。


「宇津木さんが何にも言わないなんて、気味が悪いですね」


 そんな事を言ったもんだから、やっぱり無言で叩かれた。

 人間、学習はした方がいいかもしれない。













< 35 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop