シャッターの向こう側。
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 今日、初めて宇津木さんがウチに泊まりに来る。

 厳密には初めてでもないけど……

 実は何度か〝立ち寄っている〟と言う、そんな記憶もあるけれど。

 付き合い始めてからは初めての事で……


「……死にそう」

「ブロッコリーが嫌いなのか?」

 やたらに冷静に言われてもね~?

 近所のスーパーに買い物に来ている宇津木さんて……

 なんだか想像つかないけど、目の前の事実は変わらない。

 しかも……

 ブロッコリーを片手に、真剣な顔で振り向いてる。


 なんか面白い。


「ブロッコリーくらい食っても死ぬかよ」

 ……勘違いも甚だしいけど、人の意見も聞かないでカゴにいれるのはどうかと思うよ。

「気持ち悪い笑いもやめろ」

「……仏頂面よりいいじゃないですか」

 言った瞬間にゴツンとされた。

「だからっ! 無言で叩かないで下さい」

「言ったらいいのかよ」

 いいわけないでしょうが!

「それにしても、ブロッコリーなんてどうするんですか?」

「お前のウチで晩飯だろ」

「そうですけど。私が得意なのは和風ですよ?」

「…………」

「…………」

 何、その沈黙は。

「明日、会議があってな」

「休みなのに大変ですね~。何時からですか?」

「昼過ぎだが……」


 ふぅ~ん。

 ってさ、宇津木さん。

「私の料理を信用してないでしょう」

「そうだな」

 ……この男はっ!!

 首絞めてもいいかい!?

 アッサリ言わないでよ! アッサリ!

 もう少し考えるとか、ちょっと間を空けるとか、何か考えてよ!


「冗談だ。単に新しいレシピを仕入れたから試したいだけで……パスタだが」

 そう言ってポンポンと頭に手を置かれ、つい唇を尖らせる。

 だから……宇津木さんの冗談は、冗談に聞こえないって言うの。

「……ところで、朝はどうする」

「あ。私が作ります。どんなモノがいいですか?」

「そうだな……」

 キャベツの芯を見ながら、宇津木さんは難しい顔をする。

「軽いモノがいい」

「了解ですっ!」


 何にしようかなぁ。

 なんて、考えるのも初めてで、ちょっとだけドキドキする。
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