シャッターの向こう側。
 だってさ。

 なんだかいいよね~。

 こうやって誰かと、日常的な買い物って……

 佐和子がウチに泊まったのも、もう一年以上前の話だし。


 まぁ……

 私が風邪をひいて、何故かみんなで泊まった日は別として。


 宇津木さんが夕飯の食材をカゴに入れるのを眺めながら、朝食の食材も一緒に入れて……

 そこに紛れたT字剃刀とか、歯ブラシが気恥ずかしい気分。

「本当に泊まるんですね」

 しみじみ呟くと、

「……嫌か?」

 ちょっと心配そうな声に顔を上げる。

 ……て、困った顔をさせたい訳じゃなかったんだけどな。


「なんだか……信じられなくて」

「……そうか」

 そう言われながらも、頭をグシャグシャにされた。

 ……とっても照れ臭い。

 そりゃさ……お互いイイ大人なんだし、照れなくてもいいんだろうけれど。


 いや、やっぱり照れ臭い。

 だってホラ。

 今まで単なる同僚で、先輩で、会社の人だった人がよ?

 会社で『おはよう』……って、

 まぁ、一方的ではあったけれど、言っていた人がよ?

 もしかしなくても、朝目覚めたら目の前にいる訳だよね?

 それって……凄く緊張する。


 緊張って言うか、うん。

 心臓持つか?


「……何を考えてるんだ?」

「照れるなぁ……なんて」

 ……素直に言ってみたら、また沈黙された。


「……お前も照れるんだな」


 照れるわぃっ!

 だけど、今の一言でぶっ飛んだよ!

 相変わらず失礼だな!

 失礼は健在だな!

「でもやめてくれ。俺も照れる」

 ブツブツ言われて、ポカンとした。


 ……あんまり考えてなかったかも。

 宇津木さんでも照れるんだ。


 てか、あんまりどころか、

「全然思いつきもしなかった」

「俺を何だと思ってる」

 何だって言われたって、宇津木さんじゃないか。

 お互いに視線が交わって、

「買い物しちゃいましょうか」

「思いきり話題を変えたな」

 とにかく宇津木さんはスルーして、買い物を続けた。
< 353 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop